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ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

【書評】「質問」が「社会に開かれた教育課程」につながるか?

久々にゆっくりと本を読みました。 

たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」

たった一つを変えるだけ: クラスも教師も自立する「質問づくり」

 

タイトルの「たった一つを変えるだけ」という言葉は一見すると無責任なノウハウを説くような自己啓発書のような印象を与えるのだけど、吉田新一朗先生が手掛けていることに期待してじっくりと読んでみたら、やはり幹のしっかりとした良書だった。

「社会」とのつながりの中で生まれてきた方法

本書が提案している授業の方法論は、今まで教員が「発問」という形で独占していた「質問する」ということを、子どもたちの活動として明け渡すことだ。

タイトルにある通り、「質問づくり」という活動を生徒に取り組ませることで、劇的に学びに対して取り組むようになるという方法だ。

これだけの説明を聞くと「なんだ、単純なノウハウじゃないか」と思うかもしれないが、本書がこのような方法を提案する背景には、この方法論が「さまざまな地域の市民活動に教育者として関わり続けてきた経験によるところが大きい」(P.12)と著者が述べるように、「人々が日々遭遇している問題の深刻さが明らかになるとともに、重要な思考と自分を主張するためのスキルを教える」(P.15)ことの必要性から開発されたものであり、最終的には「よく考えて行動する民主的な市民になれる」(P.25)ということを目指して考えられた方法である。

そのため、「質問づくり」のための方法論は、かなり厳密に、かつ簡素な形で練り上げられている。その内容を書いてしまうのは、本書のエッセンスを暴露してしまうようなものなのでここで書くのは避けるけれども、それらの過程が一つ一つについて一章を用いて書いてあるように効果的な学びを引き起こす仕掛けがされている。

「質問」によって学びを自分のものにする

この本の提案している「質問づくり」の方法は、徹底して子どもたちの「質問づくり」を実現するための方法を論じている。例えば、多くの教員にとって「質問の例を示してはいけない」という本書の記述とその理由の説明は耳が痛いものだ。ついつい「支援」と思って「例えば……」と話したくなってしまうのが教員だけど、そのようなことをしてしまうと子どもの主体性を削いでしまう面があることを説明されている。「質問づくり」がきちんと正当な形で子どもたちに委ねられることが重要なのだと感じる。

そして、そのようにまでして「質問づくり」を子どもに委ねる意味として、その「質問づくり」を通して、子どもたちが課題を本当に自分のためのものだというようにのめりこんでいく様子が紹介されている。本書の言い方を用いるのであれば、「生徒たちにスイッチが入る」(P.205)のだ。

この話を読んで思い出したのが『ディープ・アクティブラーニング』*1で紹介されていた「深いアプローチ」(P.45)の話だ。

ディープ・アクティブラーニング

ディープ・アクティブラーニング

 

「深いアプローチ」

  • これまで持っていた知識や経験に考えを関連付けること
  • パターンや重要な原理を探すこと
  • 根拠を持ち、それを結論に関連付けること
  • 論理や議論を注意深く、批判的に検討すること
  • 学びながら成長していることを自覚的に理解すること
  • コース内容に積極的に関心を持つこと

「質問づくり」には、これらの「深いアプローチ」が自然と組み込まれている部分がある。それだけに、たとえノウハウとして教室に取り入れるのだとしても、「主体的・対話的で深い学び」の実現につながる可能性はあるんじゃないかと感じる。

そもそも、「主体的・対話的で深い学び」の背景が「社会に開かれた教育課程」ということがあるが、この「質問づくり」という方法が社会を背景にしているのだから、相性はいいよなぁと思うわけです。

学びのプロセスを見通すためにも最適な一冊

本書の好感が持てる部分は、決してノウハウだけの説明で終わっているのではなく、ノウハウを支える原理の説明や、子どもたちがどのように学びを深めて振り返りまで行っていくかということまで説明されていることだ。

だから、本書を通読することで「見通しから振り返りまでどのように主体的な学びを教室で設計していけばいいか」というモデルの一つを学び取ることができる。

しかも、一つ一つの方法は非常に洗練されていることもあって、シンプルですぐに実践ができる方法だ。

新しい指導要領の内容と照らし合わせながら、新しい授業のスタイルを考えるのに示唆に富む一冊だ。

*1:機械学習とは無関係です。先行研究を引きながら京都大学の松下佳代先生らが提唱されている概念で、言葉遊びではありません。

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