ならずものになろう

少しは教育について話してみたくなりました。書き続けて考え続けてみたい。

ならずものになろう

湊かなえの「望郷」は生活の闘いが描かれている

珍しい記事を書いていると思われるかもしれませんが、きっかけは学期末のクラスでの本の交換会。 

s-locarno.hatenablog.com

この交換会はこちらが予想していたよりもはるかに盛り上がってよかったです。普段、運動部で本を読まない生徒や「文字を読むのが嫌い」と普段言っている生徒が熱心にもらった本を読んでいた様子を見ると中々いいイベントだったなと思いました。

そのとき、自分も交換会に参加し、生徒から本をもらったのです。それが湊かなえの「望郷」という本でした。 

望郷 (文春文庫)

望郷 (文春文庫)

 

普段、生徒が読んでいるような本を意識的に読んでいることが少ないので、生徒からもらった本を読んでみたので、その感想を書いておこうと思ったのです。

陰惨だけど明るさもある

湊かなえというとどうしてもえぐみを感じさせるような作品を連想させられてしまうため、読むときにはやや身構えてしまう。

しかし、本作はそのような湊かなえらしいえぐみはややなりを潜めているように感じる。もちろん、底抜けて明るいような作品ではなく、この一冊のイメージは「陰惨な空」のようなものだけれども、それでも、それぞれの作品に読後にはすっきりとした感じがある。

だからといって、作品の一つ一つが軽いというわけでもない。例えば、日本推理作家協会賞を受賞した「海の星」は、「推理小説」という側面を持ちながらも人間の見ている世界が複雑であることを緻密に描き出しているし、「島」が持つ閉塞的な暗さを人間の心の在り方が抗しうる可能性を示す描写はささやかだけれども力強い。

同じ場所に住みながらも無関係な世界を生きる人々

本書の中のそれぞれの短編は、同じ「島」を舞台としながらも、それぞれの作品の世界は無関係に展開されて無関係に閉じていく。

同じ場所で生活しているはずなのに、全くそれぞれの作品につながりがない。本書の「島」の描写からはこの「島」が非常に狭くて、変化がなく、逃げ場のない場所であることが読み取れるのに、それぞれの作品はすべて無関係に展開されている。

それぞれの物語の主人公や読者が感じさせられてしまう「島」の閉塞感や狭さの印象とは異なって、それぞれの人間はそれぞれに生きている。

人間はそれぞれの世界をそれぞれに生きている。その淡々とした事実は都会化した場所に住む人間には気づきにくいことだ。しかし、どんなに狭いと思う世界でも、その世界に生きる人は多様な物語を抱えている。

その多様さを改めて感じさせられることが面白いように思う。

生徒が読む作品を読むということ

自分ではこういう作品は手に取らないという自覚がある。

それだけにしっくり来ているかと言われるとしっくりきていない部分もある。

子どもたちがこういう作品を読んでどんな反応をするのかを知ることは重要だなぁとなれない作品を読んで思います。

 

Copyright © 2023 ならずものになろう All rights reserved.