短歌を授業でやっていると生徒から「短歌はわかるけど古典の和歌は読めないんですよね…」というコメントを大福帳にたびたびもらっている。
授業で扱っている短歌が比較的文語色が弱いものだから、「短歌はわかるけど和歌はわからない」という感想につながっているような気もするのだけど、それとは別に「和歌」は確かに馴染みにくいところはあるかもしれない。
実際、短歌を詠んだりする人はいても、国語の先生以外に「古今集を読むのが趣味です」とか「やっぱり新古今より万葉集がいいね」とか言っている人は見たことがない(笑) いや、短歌を詠む人はある程度は和歌集は読むか。
でも、まあ、実際、文語であることや修辞技法が難しいことを考えれば、確かにハードルは高いかもしれない。
そこで、「和歌について知りたいなぁけど掛詞とか序詞とか修辞技法が難しくて和歌はよく分からない」という人にこそ、ぜひ読んでもらいたいのが次の本。
この本が高校生程度の知識で読める、和歌の入門のための良書なんです。
執筆者がとりあえず凄い
この手の入門書的な本は、新書が多いイメージだけれども、本書は笠間書院という日本語・日本文学の大手出版社から出されている本なのです。
それだけにハードルが高そうに見えるせいか、「入門書」としてあまり現場の先生方に知られていないイメージなので、ぜひともここでおススメしたいのです。
やはり、笠間書院ということもあって、書いているメンバーがすごい。
上野誠/大浦誠士/小林一彦/小山順子/鈴木宏子/田中康二/谷知子/中嶋真也/錦 仁/廣木一人/渡部泰明
分かる人にはわかるでしょうが、和歌の名うての専門家が勢揃いしている豪華ぶり。
それだけに、本来は様々な決まり事があって、なかなか理解しにくい和歌の読み方を非常に端的かつ明瞭に解説してくれています。
高校の和歌の授業覚えている?
天に唾するようだからアレだけど、高校の時の和歌の説明って理解できましたか?
たとえば、「伊勢物語」の九段には
唐衣きつつなれにしつましあればはるばるきぬる旅をしぞ思ふ
という歌が載っていて、毎年高校一年生が高校の先生方からエラソーな解説を受けている訳ですが、どれほど内容を理解できているでしょうか。
たとえば、この和歌には修辞技法だけで「掛詞」「序詞」「縁語」などが使われている*1のですが、どれほど覚えているでしょうか。
また、この歌はのちに尾形光琳の「燕子花図」の屏風に描かれているほど、古人には親しまれてきたものなのであるのだけど、その感覚だとかちゃんと授業で伝わっているだろうか。
まぁ……国語の先生って大変ですよね(泣)
縁語を一言でたとえると?
この「伊勢物語」の歌も燕子花図も本書の中では紹介*2されています。
この「燕子花図」が留守模様と呼ばれるものであることやどうしてそれが大切なのか…ちゃんとわかるように説明されています。
もちろん、いきなりそのような話に入るのではなく、それぞれの修辞技法の解説から始まっており、予備知識がほとんどなくてもわかるようになっています。
たとえば、高校生にとって分かりにくいものの例の一つが「縁語」ですが、本書では「縁語」のことを「隠れミッキー」と呼んでいます(笑)
一体、何のことか気になった人は、本書をぜひ読んでみてもらいたいのです。
和歌の入門にも学校の授業の復習にも最適
他にも、学校の授業では「決まった語句を導く五文字の言葉」と教えられている人が多い「枕詞」の本来の意図や奥行きを説明してくれたり、高校生が理解できないで発狂する*3「序詞」を「駅」に例えて説明してくれたり、知っているつもりのことも深まるし分からなかったことも理解できる本になっています。
ちなみに、自分がこの前行った授業のヒントも本書の「序詞」の説明から得ています。
自分が特に重要だと思うのが「見立て」についての解説です。
高校で解説してくれる人はそれほど多くないにも関わらず、ある意味、和歌と近代短歌の大きな差になる部分であるだけに、ぜひ、よく理解してほしいなぁと思うところ。
まあ、それはともかく、和歌について躓いた人や知りたいけれども他の解説書ではうまく分からなかったという人ほど、この本は読んでほしいところです。
作品の解釈を色々知りたいのであれば(応用編)
もし、たくさん和歌を詠んでみたいというのであれば、次の本をオススメします。
こちらは一つ一つの和歌の解説が丁寧。その分、『和歌のルール』で分かりやすく説明されていた「ルール」や和歌の「感性」の解説は手薄なので『和歌のルール』を理解した後の多読用に使うと良いと思います。